立春

左耳のアンテナがむずむずするので
自分を開くのがとても苦手な私は
鳩尾ののクルクル窓を少しだけ開いて
隙間から外の景色をそおっと窺ってみた

北側の空き地に女性が立っていた
今にも透き通りそうな儚さで
折からの寒風に髪を弄ばれるまま
半透明の微笑みを浮かべていた

またあの忌まわしい季節がやってくる
毛細血管が徒にはしゃぎ出し
ノルアドレナリンがその気なってしまう
あの暖色に塗れた祭りの季節だ

自分を開くのがとても苦手な私が
心の準備もないまま全開にさせられ
仕方なく呆けたふりをしているうちに
気がつけば花弁と共に置き去りにされる

あの忌まわしい季節だ

慌ててクルクル窓を閉めようとして
うっかり空き地の女性と目を合わせてしまった
半透明の暖色じみた微笑みが
残像となってドライアイに染み渡る

きっぱりと窓を閉めたが手遅れだったようだ
口角の蝶番がすでに緩み始めている
爪先が闇雲に行先を探し始めている
開いてしまいそうな自分に溜息が出る

暖色じみた溜息が出る

投稿者

東京都

コメント

  1. 春は花も自分も開くのですかね。溜息すらもあたたかくするなんて。

  2. @あぶくも さん
    >コメントありがとうございます
    雪国育ちのくせにすっかり寒さに弱くなってしまいました。
    そのためか暖かい色に敏感に反応してしまいます。
    最近は率先して花見に出かける自分にうんざりしています(笑)

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