浅い眠り

騒めきの通りから
暗く曲がりくねった路地に誘われて
踵を返した

ランプが点いたドアの前
コツコツとノックして把手を回した
鍵はかかっていなくて
乾いたほのかな風がぼくを包んだ

ドアを閉めてみると微かな電灯が闇を切り裂いていた
迷路の廊下を辿るとドアがもうひとつ
コツコツとまたノックする
やはり鍵はかかっていなかった

ドアを開ける と
ベージュの空間が広がり
大古の空気が満ちた化石の森だった
岩々には三葉虫やアンモナイトの囁きが微かに聞こえてくる
ティアノザウルスは此処はお前の来る処ではない!と唸った
ぼくはもう行く処が無いのです と 応え
走りに 走った!
またドアがあって飛び込んだ

其処は狂った時計の森だった
時計たちはぼくに
いま何時! いま何時! と絶え間なく聞いてくる
このままではぼくも狂ってしまう
両手で耳を塞いで
走りに 走った!
またドアがあり
飛び込んだ!

其処は鏡の世界だった
何処から聞こえてくるのかわからないけれど
ハッッハッッハァ! どれがお前なのか判るか? と
ぼくはどれがぼくなのか分からなくなった

やがて薄絹に包まれ
柔らかな布団にくるまって
スズメのさえずりに眼が醒めた

とても疲れた朝だった

投稿者

埼玉県

コメント

  1. 夢オチ、という言葉もありますが、この詩は出オチ、という気がします。
    恐い夢を見た疲れた、ではなく、今日も浅くしか眠れなかった、という失望そして現実が始まることへの諦めのようなもの。
    時計のところ、特に迫力がありました。

  2. レタス様の、いつも清流を思わせる様な爽やかな筆触は、
    なめらかな強弱のリズム感も心地よくて、惹き込まれてしまいます。^ ^
     最終連の、一連一行の余韻が効いていますね。♪

  3. @たけだたもつさん
    拙作を読んで頂き有難うございました。
    そうですね。現実が始まる諦めは確かにあります。
    眠りの浅い時は本当に疲れるのです。

  4. @リリーさん
    拙作を読んで頂き有難うございました。
    おほめの言葉痛み入ります。
    私はそんなに大した者ではありません。
    俗人です(^^;

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