季節

足元の小さな一段下
花が海に濡れた
昨日、きみが
わたしのために育ててくれた花
名前をつけそびれて
それっきり咲いた

木々の陰影
夜明けに私鉄が発車する時の
孤独な音のひとつひとつ
特定郵便局の裏口あたりで
局員が手指を海で洗っている
昔からそれは
春の訪れだった

名前もないまま
海に揺れているあの花は
多分わたし自身
窓、開けておいたよ
そんな季節の話に夢中になって
きみの横顔ばかり
ずっと見ていた

その後、二つ三つ
言葉を足した
生きることと
その不確かな匂い
わたしたちはここにいる
と、知った時から
きみと
結婚したいと思っていた

投稿者

コメント

  1. 野暮な質問なんですが、たけださんって詩を書くとき、どういう手順なんですか?スルーでもokです

  2. @花巻まりか
    花巻まりかさん、コメントありがとうございます。
    そういうのを語り合うのって面白いですね。
    みなさん、それぞれだと思うのですが、わたしは最初の一行が全てです。最初の一行さえ書ければ、音楽でいえばコード進行に沿って言葉を置いていくイメージ。絵画でいえば筆を選ぶように言葉を選んで、タッチを決めて。
    最初の一行は、気になった言葉、フレーズ。
    奇抜なものでなくてもいいんです。
    「朝食を食べた」が気になったら

    朝食を食べた
    コーヒーを飲んだ
    途中で船に乗って
    海賊になった
    リビングの観葉植物に
    朝日があたって
    それが誕生日だと思った

    すいません、即興なのですが、こんな感じで。
    自分語りし過ぎたかな。花巻まりかさんのお話も聞かせてくださいね。

  3. 映画だなあ、と。
    中でも局員さんの様子がとても好きです。

  4. なるほど…江國香織みたいですね。センスなんだろうな。雨、アスファルト、コーラ、飲めない…
    私は…事実に想いを織り交ぜロマンチックにしたてたい。が、全部嘘の気もします。

  5. @たちばなまこと
    たちばなまことさん、コメントありがとうございます。
    なるほど、映画か。確かに、今回はシーンが最初に浮かんできて。それに言葉をつけていった感じです。

  6. @花巻まりか
    花巻まりかさん、お話きかせていただいてありがとうございます。
    江國香織さんは、「すみれの花の砂糖づけ」という詩集が大好きでした。

    全部嘘、わかる気がします。ごまかし、というか。その一方で、全部嘘、であることには意味と理由があって、そこに作者の本当のリアリティがある気がします。
    誰にも開示されない、秘密の小部屋のような。

コメントするためには、 ログイン してください。