拝啓、中島みゆき様 vol.1あぶな坂

1976年に発表されたファーストアルバム「私の声が聞こえますか」
その第1曲目がこの『あぶな坂』という曲なのですが
この曲、中島みゆきというアーティストの底知れない恐ろしさ、凄み、
なんだかうまく説明できないけど、とのかくこの人はとんでもないぞ!ということを
否が応でも思い知らされることになる、ものすんごい曲なんです

☆以下、歌詞です

     あぶな坂

  あぶな坂を越えたところに
  あたしは 住んでいる
  坂を越えてくる人たちは
  みんな けがをしてくる
    橋をこわした おまえのせいと
    口をそろえて なじるけど
  遠いふるさとで 傷ついた言いわけに
  坂を落ちてくるのが ここからは見える

  今日もだれか 哀れな男が
  坂をころげ落ちる
  あたしは すぐ迎えにでかける
  花束を抱いて
    おまえがこんな やさしくすると
    いつまでたっても 帰れない
  遠いふるさとは おちぶれた男の名を
  呼んでなどいないのが ここからは見える

  今日も坂は だれかの痛みで
  紅く染まっている
  紅い花に魅かれて だれかが
  今日も ころげ落ちる
    おまえの服があんまり紅い
    この目を くらませる
  遠いかなたから あたしの黒い喪服を
  目印にしてたのが ここからは見える

どうでしょうか? なんとも意味深な歌詞だと思いませんか?
中島みゆきについてそこまで深くは知らないという方
ぜひとも、一度聴いてみてほしい楽曲
歌詞の意味を、ぜひとも考察してみてほしい楽曲なのです
何故か? 私が思うこの曲について
みゆきはこの曲で、自分がどういった歌手でどういった歌を歌っていくか
どういった人たちに向けて歌っていくか、といった宣言のような
また、自分の歌を聴きにくる人たちはどういう人たちで
何を求めて聴きにくるのかといったことを
まるで予言者のように、その先の未来が見えているかのように歌っているのです

みゆきはもうすでに幼少の頃からオリジナル曲を作っていたらしく
(音楽の授業で習う歌より自分で好きな曲を作った方が楽しい、と思っていたんだとか)
高校の文化祭で初めてステージに立ったらしい
当時はまだ、女性が男性より目立った行動を取るのをよしとしない世の中で
なので、女性がひとり舞台に立って、弾き語りしようものなら
あちこちから物や罵声が飛び交っていたらしいのですが
その時のみゆきの歌に、途中で罵声を浴びせるものも、物を投げるものもなく
特に女子生徒からの支持がめちゃくちゃ高まっていたらしい

大学に入ると、片っ端からコンテストを受けまくり
コンテスト荒らし、の異名を持つほど(これはもう伝説の語り草)
だけど、本人いわく、小遣い稼ぎのためにあらゆるコンテストに出場したが
毎回ちゃんとお金をくれたのは、ヤマハだけだったんだとか(笑)

1975年 第9回ポプコンで『傷ついた翼』入賞
その年の9月に『アザミ嬢のララバイ』でデビュー
10月 第10回ポプコンで『時代』グランプリ
11月 第6回世界歌謡祭でも『時代』グランプリ、12月には2枚目シングルとして発売
そして翌1976年にファーストアルバムが発表されます

シングル2枚出しているとはいえ、ファーストの1曲目って結構重要だと思うんです
ここでもしもリスナーが躓いてしまったら、つまらない退屈、と感じてしまったら
2曲目以降もきっとおざなりにされてしまう
それどころか、次に出す曲にも影響があるかもしれない
だからこそのこの『あぶな坂』だったのではないかなあ、と私は考えます

デビュー曲から一貫して、傷ついて倒れそうになっている人たち
特に男性優位の世の中にあって、酷い目にあっているのに云うことさえできない女性たち
への優しいまなざし(本人は男いじめの歌、と云って笑います)
誰にも打ち明けられない思いをひとり抱えて、泣くことさえできない人たち
強者よりも弱者に対して、
また、今生の世界では果たせなくとも、来世ではきっと、と
輪廻転生のことも、『時代』のときから変わらずテーマに据えていたり
世の中に忘れされてしまったように感じている、そんな人々に向けて
光を当てがってきたのが、中島みゆきというアーティスト

あぶな坂の橋は壊れているから、きっと安易に近づいたりしたら
思わぬ怪我をしてしまう
この坂を越えてくる人たちはみんな怪我を負った人たち
そういった人たちだけが渡ってくる、越えずにはいられない坂
その坂を越えたところに住んでいるのが
おそらくみゆきご本人
だけど、これまたスゴイのが
一度この坂を越えてきたら、もう元の場所に戻るのは難しいよ
と、暗に忠告めいたことも云っていて
つまり、あぶな坂を越えてくる人たち、みゆきの歌に魅かれてやってくる人たち
最初はわかってくれる人がいるんだ、と思うかもしれない
だけど、いずれは自分自身が抱えている問題に直面し
向き合わなければならないときが必ずやってくるんだ、ということ
その覚悟もないまま、この坂をこの橋を渡ってくると
きっと元いた時よりももっと辛くしんどくなるかもしれないよ、と

みゆきの歌詞は、かなり傷口を抉られるような歌詞が多いです
多分そういうことも含め、単純に救われたい、癒されたいがための歌ではない
という忠告でもあるのではないかな、と

ファーストアルバムの1曲目に、こんなスゴイ曲を持ってくるなんて
やっぱり並のアーティストでは出来ないことなんじゃないかと
私の個人的見解ではあるのですが
おそらく古くからのファンで、この曲も知ってる方なら
わかっていただけるのではないかな、と

みゆきは衣装の色に赤を選ぶことが多い気がしますが
デビューしたばかりの頃は、黒のワンピースを着ていることがほとんどでしたよね
その辺りもちゃんと歌詞に反映されてるんです
黒い喪服を目印に♪

めちゃくちゃスゴイ、スゴすぎる!
私が云うまでもありませんが
改めて中島みゆきという人の恐ろしさ(いい意味で)を実感させられます

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最後までお読みいただき、ありがとうございます
敬愛するアーティスト・中島みゆきについて語らせていただきました

投稿者

東京都

コメント

  1. 中島みゆきさんのことを熱心に語られていて、その熱意が伝わってきました。

    中島みゆきさんは、昔から好きなアーティストです。
    昔、みゆきさんの オールナイト・ニッポンを聞いていました。昔の(70年代ごろから80年代ごろの)、みゆきさんの歌が好きです。
    それらのいくつかの歌を入れたカセット テープを、数年前に新調したCDラジカセでUSBメモリにダビングしました。

    あと、話を飛ばしますが、雨音さんは、エレファントカシマシも大好きとのこと。エレファントカシマシさんのCDアルバム2枚(「明日に向かって走れ」と「グッドモーニング)私持ってます。^^

  2. @こしごえ
    さんへ

    コメント、ありがとうございます
    こしごえさんも中島みゆき、お好きなんですね(#^.^#)
    オールナイトニッポン、あれみゆきファンは絶対最初戸惑ったはず
    ラジオでの底抜けに明るい、ガハハハ笑いながらしゃべるみゆきと
    歌のときのみゆき、ギャップがありすぎて(^_^;)
    でも、最後のおたより
    そこに寄せられたハガキをもとに作られた曲も、いくつもありますよね

    古い曲もいいですが、90年代以降の曲もいい曲たくさんあるので
    よかったら聴いてみてください
    全部ではないけど、一部サブスクも解禁されているので
    Spotifyなどでも聴くことが出来ますよ

    エレカシのCDもお持ちとは!
    「明日に向かって走れ」は、契約切れから奮起して
    「悲しみの果て」「今宵の月のように」がヒットしたころのアルバムで
    曲作りにかなり葛藤していた(ミヤジは出来上がったデモテープを聴いて
    あんまりキレイすぎたために、ウォークマンをその場に叩きつけたってエピソードがあります)
    でもその中のラストの「恋人よ」は隠れた名曲だと思ってます
    「グッドモーニング」は、「ガストロンジャー」って曲で、いままでのタガが外れた感があって。
    アルバムは全曲打ち込みで作ってるっていう

    なんだか、つい熱くなってしまいました(^-^;
    ありがとうございました!

  3. 70年代は多くの隙間産業が芸能界に新たな刺激を打ち込んだ時代でした。
    地方出身者の思いを歌う長渕、女性の負の側面を歌う中島みゆき、同和問題を歌にする岡林信康、既存の芸能界のイメージに揺さぶりをかけるような表現者が出てきて、その後低学歴出身のとんねるずが出てきて素人の笑いが受けて芸能界が民営化されてしまいましたが。
    この詩も今読んでも斬新です。ラジオでの喋りも面白い。

  4. @荒川濁流
    さんへ

    コメント、ありがとうございます

    あの時代はちょうど、海の向こうではベトナム戦争があって
    若者を中心に反戦デモが盛んだったり
    日本でも学生運動が盛んで
    自分の想いを詞にし、曲をつけて歌う
    いわゆるシンガーソングライターといわれる人たちが
    台頭していった時代でしたね
    岡林信康の「友よ」なんかは
    学生運動のテーマソングみたいにされていたようですしね
    本人はそんなつもりで作った曲ではないらしいんですけども
    高石友也、高田渡、加川良、なんて方もいましたね

    そういう社会や政治批判の歌でない
    もっと個人的な、人生や恋愛についての悩みなんかを歌っていたのが
    吉田拓郎ですよね
    中島みゆきも長渕剛も、かなりの拓郎ファンで
    すごい影響を受けてたって話ですし

    とんねるずは、面白かったかはさておき
    バブルを象徴する芸人さんって感じでしたよね

    この詩、斬新と云っていただけて嬉しかったです
    みゆきって頭いいなあって思うのは
    あのラジオのハチャメチャテンションマックスのお姐さんと
    歌の中のシリアスなみゆきと
    聴いてる側は、どっちが本当のみゆきだ?ってなるんだけど
    うまい具合に本来の姿をカムフラージュしてるんだろうなあって

    あ、ちなみに「カムフラージュ」っていう曲もあります(#^.^#)

    ありがとうございました

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