盆の歌

盆の歌

浴衣の帯が苦しくて 不機嫌な顔をしていた
それでも金魚の袋は しっかり握って
夜店の光が届かない 闇の狛犬が怖くて
握った手に力が入った 小さい弟の小さな手

田舎の家の 広い居間で
大人たちが集まって 談笑している
静かなざわめきを 子守唄の代わりに
うとうと 夢見るのが好きだった

ゆっくり回る 走馬灯
影絵の馬は 黄色い目
線香花火は 小さな太陽

この世を去る直前に きっと思い出す
優しかった人たちの 笑顔の匂いと
わけもなく楽しかった夜 遠い夏のことを

投稿者

奈良県

コメント

  1. 優しかった人たちの 笑顔の匂いと
    わけもなく楽しかった夜 遠い夏のことを

    最終連に、本作品の柔らかさが滲んでいるように思いました。笑顔の匂い、という表現、いいですね。ソネットの文体も、このお作品に似合っています。

  2. 幼きころの夏の思い出、遠くなった夏の匂い。日本人がもつ懐かしさ。
    僕は田舎も故郷もなく育ったのですが、なぜか懐かしく胸がほんのりする。やっぱり日本人だからかなぁ。
    1,2連の僕も体験したかのようなエピソード、そして3連、映像が目に浮かぶ。

  3. この詩に描かれている情景と心情がバランスよく融合していて、詩の強度が私のこころにしみわたってきます。すてきな詩ですね。

  4. 読んでくださったみなさん,ありがとうございます.

    長谷川忍さん.
    子供の頃の田舎での香りと言えば,やっぱり蚊取り線香で,毎年これを燃す季節になると
    ノスタルジックな気分になります.最近は,色んな香りのが売っているようですけど,
    やっぱ,キンチョーのやつが好き♪ 

    王殺しさん.
    夜店に行くのって,子供にとってはどきどきしてうれしい出来事なんだけど,暗いところは
    わけもなく怖いですよねえ…まあ,今でも暗いな場所は怖いですけど,その質が違うというか
    子供の頃に感じる怖さが,生き物としての根源的なものという気がします♪

    こしごえさん.
    抒情というのは難しいですよね…日本語では叙事詩はつくれない,って誰か高名な詩人さんが言って
    おられたけど,あたしにはまだ抒情詩というのもよくわからないです.けど,こしごえさんのように
    行ってくださる方がいらっしゃるのは,こんなんでいいのかな,と思えてすごくうれしいです♪

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