アヤ・ソフィア静寂の断片
お前の声が
まだ音になる前
俺は骨で聞いた
内臓のスープで
気配を味わい
皮膚の下で
YesかNoかが
水面の様に揺れた
まだ愛という
概念が発明される前
カティンの森に眠った
小さな発火点
それがたぶん君だった
自由と独立を求め踊った
酒とファッション
強気のプライド
ブロンドのポニーテール
山の中で咲く
ワイルド・リリー
二人のダンスは
どうだった?
おまえの指が触れた
古書のページが裂けた音で
唐突に季節は変わった
空が文字になれなかった
あのときの青
意思と欲望の間に落下したまま
上手に発せられなかった
ひとつの母音
廃墟のような瞬間
感情が石化し
遠くの風だけが
おまえを撫でた
未完の祈りが
ふたりの影を交差させ
そのまま 別の言語へ
変換されることもなく
昼と夜は3年
空を回り続けた
砂時計のひと粒
おまえの名前を呟き
俺の時間から
おまえは
永久に消えていった
アヤ・ソフィア
あの日のまつ毛に揺れた光が
今もここに
焼きついている
秒針は沈黙を続け
祈りはビルの谷間で消えた
忘れた声の輪郭だけが
俺に残った
おまえの影が
静かに壁を抜け
時間が止まる
マッカランを置いた
あの家のテーブルクロス
最後に口にした
言葉の温度がまだ残る
空っぽのティーカップが
泣いていた
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