惑星のシグナル

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  ロンドンの午前7時

     アムステルダムの午前8時

 シカゴの午後4時

          ミラノの午前8時

   ドバイの午前10時

     デリーの午後12時     

  香港の午後2時

東京の午後3時

街の灯りと陽射し
人々が揺れる
同じ地軸で
同じ瞬間
夜はいつもあどけなく優しい
昼は兆しを予告して
朝が彼や彼女やあの人たちを生き返らせてくれる
地下鉄 ビルの間 交差点
同じ懐かしさが
同じように再び
同じ自転の場所で
同じ静寂  同じ速さで
望む人々に 同じシグナルで明日の予感を与えるんだ
たとえ 
祈りの明日が違っても

君になにをしてあげられるだろう

「今日なんてものはね、昨日のしくじりを消してチャラにするためにあるの」

彼女は軽い微笑で
一日を信じる決意を やめなかった

足早に投げ出すように
無為のように消していく人々のなかで
投げたような彼女のピースの煙は
懐かしい光を投げるように
一日の光景を造った

一度きりの今日を

隣り合っていた 僕は
彼女が描く光の軌道を追いかけながら
甘くもないフレンチトーストで
必死にすがって 一日ずつの甘さ
僕たちに添えようとしていたのさ

同じ地軸
同じ時間のライン
午睡の日差しが終わる バンコクの公園
スクンビットの芝生を 子供が転ぶ
黄昏る射光のヒューストン
アイピックシアターの前にいた 少年が少女に 花を渡す
メトロレンフルーから200メートルの通りでは
バンクーバーの夜明けを迎える前に 
彼はたったいま 彼女へ別れを 告げた
ブランデンブルク門に面したビル
ネオンサインが眩しいミッテ区の通りを
屋上から身を乗り出すたったひとりの男がいる
ベルリンの彼は
東京の僕と 同じ時間の生を
たった一人で終わらせるかも知れない

僕はこの同じ時間のラインで 生きている人々を 守っていたい

たとえ 
祈りの明日が違っても

僕の生
理想的な人間じゃないし
完璧な人生じゃない
でも 彼らが受け取るシグナルを守ってやりたいんだ
たとえ地軸を感じる居場所が違っていても
たとえ明日へ祈る望みが違ってもだ

君になにを与えられただろう

「あなたの今日はね、あなたの昨日を生き返らせるためにあるの」

僕がくゆらすピースの向こうで
消えていった彼女が 今も軽い微笑で与えてくれる

理想的じゃない人間を続けながら
完璧じゃない人生を 一度きりの今日から
明日の無為へ 必ず投げ込んでやる

どこかからつながる 時間のラインから 
僕に いまも 話しかけてくれ
どこかにいる 地軸の場所へ
僕から 手を伸ばさせてくれ
ほんのかすかな甘さの フレンチトーストを添えて
君が祈る明日 伝えてくれ

遠ざかった 僕と君の過ぎ去ったあの日々の望みを 
今日の時間の兆しへと生き返らせるんだ
この地軸の場所から 君の明日への望みに 
今も同じシグナルで 僕の祈りを 重ねるんだ

完璧じゃない人生のここから 理想的じゃない人間の僕が
時間のラインで連なる 君の今日を守ってやるんだ

君は僕のかつての一日を 
決して疑わず 
信じてくれていたのだから

  パリの午前7時

     モスクワの午前8時

      ニューヨークの午後4時

            アテネの午前8時
   バンコクの午前10時

     メルボルンの午後12時

   上海の午後2時

東京の午後3時

人々が揺れる
同じ地軸
同じ時間のライン
同じ静寂  同じ速さ
同じこれからのシグナル
同じ明日の予感
あどけない優しさの夜の灯
生き返らせてくれる陽射しの朝
兆しを待つ人々
揺れながら
望むことをやめない人たち

僕はなにを祈るだろう

この世界の地上で。

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投稿者

徳島県

コメント

  1. 谷川俊太郎の有名な詩「朝のリレー」へのオマージュというか、むしろそれへの反発から生まれた詩のように思えました。

  2. たかぼさん、ありがとうございます。それ、意識しましたね。それで自分がもっと面白くしてやろうという意識は自信過剰ながらありました。80年代のキング・クリムゾンを聴きながら書きました。

  3. クリムゾンはレッドまでが最高、というか、宮殿と戦慄が最高ですね永遠に。

  4. 僕はエイドリアン・ブリューが入ってからのクリムゾンばっかり聴きすぎてます。

  5. ああ第三期からですね。失礼しました。ブリューは、アメリカ人のくせにクリムゾンに入りやがってなどと心ない陰口を叩かれたりしましたが、私も好きです。中興の祖と言っても過言ではないですよね。

  6. 今はネット経由で世界の時間意識しない暮らしとなりましたが、少しだけ前は時差を考えて電話をしたりしてなかなか気を使った。この気を使いは案外相手を思う心だったので、時とともにそのへんも薄れてきたかもしれませんね。便利だけど。惑星から見れば知ったこっちゃないレベルのささやかな人の営みや祈りを感じ、好きな作品です。

    クリムゾンは時代によってまったく別もんと言えますが、どの時代もほんと捨てられないですね。僕はなぜかあまり人気のないリザードがとても好きです。ゴードン・ハスケルが人気ないなあ。
    でもこのアルバムがなければYesのClose to the edgeもなかったと思うんだよなぁ。

  7. クリムゾンの話題が!
    この世でいちばん好きなバンドがキングクリムゾンです。一枚だけアルバムを選べと言われたら『RED』ですが、どの時代のクリムゾンも死ぬほど大好きです(語彙力…)。今の編成にブリューのギターが欲しいところです。たぶんこれが最後になる今年の来日、大阪二日間と千秋楽の立川、行きます。死ぬ気でチケット取りました(金額的に)。

  8. 僕も土曜の国際フォーラムに行きます。

  9. かっこいい。
    常に流れている感じが好きです。

  10. たかぼさん、こんばんは。そう思います。ネタバレみたいですがこの詩は“Model man”という曲にインスパイアされて書きました。あの黄色いアルバムですね。

  11. 王殺しさん、こんばんは。ありがとうございます。まさに祈りと営みについての詩です。ビルの谷間に日が差し込んでいくような、そういうさわやかさで書きたいと思いました。

  12. 大覚アキラさん、こんばんは。80年代以外のクリムゾンも聴いてみようと思います。ファーストと80年代、90年代以降はそこそこ聴いているんですが。

  13. たちまこさん、こんばんは。ありがとうございます。かっこいいと言われると昇天しそうなくらいうれしい。自分ではそういう感じで作れたと思っていますから。

  14. ハバナの午後9時、も加えてください。音楽の街…。(^^)

  15. 長谷川さん、おはようございます。それいいですね、改作しましょう(^ ^)
    行きたかった街です。独身だったら行ったのになあ。

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