生まれたことについて

きみのペースに生きている
ゆるまったり急いたりして
かたちを自在に変えながら
音楽を奏でるいきもの
春の空をゆびで容易くひろげて
降りてきたきみなのでしょう
川辺の花に鼻をよせ
草にむしゃぶりつくいもむしを手に招き
かわいいんだよと歯を見せる肩越し
雲は風のきまぐれに流れ
空気はたいようの生活についてゆく

わたしには
同じ顔をした母と
同じ哲学を持つ父と
妹と
弟がふたり
きみには
美しい母と
司祭のような父と
妹と
弟がひとり
わたしに壊れている部分があるとしたら父の不在と台頭
きみが渇望している母の存在

受け入れた 受け入れられた
生まれたことについておもう
手が似ているね
小指が短いの
生まれたことについて語り合う
空白を埋めて
かけ算で高まるように
ああ
生まれたのだから
朝が晴れればさんぽに出るし
雨の日はぬくもりをたくわえる
確かに存在する真昼や
確かに存在する脈拍
豊潤からごはんをいただいて
夜はおさない声を床にならべる
生まれたことについて 手を合わせて
生まれることについて 寄り添うことを求め
生まれることについて 曖昧なひとつの道を見つけ
生まれることについて 終わらない交換をつづけ
ひたむきなたましいの独白を
こぼさないようにすくいたい
ああ
ばかげているのかな

きみのペースに生きている
八割の遊泳と二割の閃光
からだじゅうをなめまわす瞳の
最中(さなか)に生きると決めた
春の空を食べてみたかったから
降りてきたわたしなのでしょう
素材の声に耳をよせ
虹の糸をつむぐ
生まれたことについての潮騒
生まれることについての極彩
とおくひろがる思想に透けて
雲は風のきまぐれに流れ
空気はたいようの生活についてゆく
雲は風のきまぐれに流れ
空気はたいようの生活についてゆく

*

投稿者

東京都

コメント

  1. 家族、特に子供の存在は驚異ですよね。もしも何か少しでも違ったら、相手はもちろん、受精する精子と卵子が違えば別の子供が生まれてきたのだろかとか。いや、しかし、たとえ肉体が違っていても、魂はその子でしかあり得なかったのではないか、とか、そんなロマンチックな想像もしたりします。

  2. 子供を見つめることで命が目に見え自分の手の中にあるものだと気づくのかもしれない。
    それは想像だけれども、ブルーハーツのうたで
    「生まれたからには生きてやる」という一節があって、それに長い長い間背を押されてきたし、生きている大人、子供、赤子にも捧げたい。

    最終連を特に何度も読みました。

  3. この生命を見つめるあたたかさ、深み、凄み。素晴らしい詩を読ませていただきました。

  4. 読後、生というものへの郷愁感を想ってみました。生きることは、時に苦いけれども、懐かしさそのものでもあるのかな、と。

    ひたむきなたましいの独白を
    こぼさないようにすくいたい

    このフレーズ、いいですね。ひたむきなたましいの独白。大切になさってください。

  5. ほんとうに息をするように詩を書く人なんだなぁ、と思いました。詩の呼吸。

  6. たかぼさん
    ロマンチック!
    遺伝子の記憶とか意思とかあるのではないかと思ったりもします。

  7. 王さん
    自己肯定感はめっぽう高い方でしたが命の大切さについてとかそういうのは考えていない若者でした。
    子を授かり必要な人を失ってからは、生まれたことについて、生きることについて、いきものに限らず(作品など)産み出すことについて、取り止めもないまま深く広く思うようになりました。

    うた、聴いてみます。

  8. あぶくもさん
    あたたかいお言葉です。
    お風呂みたいにじんわりしみますね…。

  9. 長谷川さん
    ああ、懐かしさありますね。確かにーってうなずいています。
    子どもたちの葛藤の日々が、涙で霞むほど美しくて驚いています。自分にもこんな日々はあったんだ。どんなだったかな。そんな風に何らかの答えを求める訳ではなく、皆さんとも一緒に語り明かしたい、生まれたことについて、です。

    たましい、褒めてくださってありがとうございます。

  10. timoさん
    家族になったり、親になるって、とてもうれしいことですよね。そこは意識して呼吸したい!

  11. 「ひたむきなたましいの独白を
    こぼさないようにすくいたい」

    このフレーズがとてもいいですね。
    たちまこさんの魂が響いて、あふれ出るような詩だと思いました。

  12. 存在や世界を受け入れ合う優しさの強さをこの詩から思います。
    この詩を読みながら感じますが、生(せい)が あたたかい やわらかな光に包まれていると感じます。うれしくなる詩です。

  13. 渡さん
    お褒めくださり光栄です!
    大切なひとたちを救ったり救われたりするような綺麗な音色の魂でいたいです。

  14. こしごえさん
    うれしくなるなんて言っていただけてとってもうれしくなります。
    違いを受け入れ合ってすてきな妥協を作ってゆく関係は生きやすいです。

  15. 猫をイメージしました。
    ふわふわして柔らかくて、でも眼の奥の強かさも感じられて。
    とても好きな詩です。

  16. @ぺけねこ
    さん 確かに!どことなく猫っぽいです。急に愛おしくなりますね。
    好き、をありがとうございます。

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