灰色の世界

これは七日ほど前の夢の話だが
私は延々と続く線路の中央に茫然と立っていて
私の四肢をバラバラに砕き…
私の内臓をビラビラに抉る…
恍惚的な妄想の支配者たる列車を待っていた
しかし目前に不意に現れるという気配すらなく
ただ頭上の鳶のびゅるうるると啼く声に怯えていた
風は無いが足元に広がる灰は
緩やかに舞っている

そしてこれは三日前の夢だ
普段あまり会話のない父が突然私の寝室に入って来て
母さんを殺して来たんだが、お前も死ぬか?
右手には血で染まった包丁を握り締めていて
母さんが鰯の天麩羅を作ったんだが、お前も食うか?
といった質問と同じトーンのとんでもない台詞で
私は殺されそうなことよりも緊張感のなさに腹が立って
父の包丁を奪って喉元を切り裂いてやったら
ぱっくり開いた傷口からびゅるうるると空気が漏れ
何故か部屋の中に広がっている灰を
すっかり吹き散らした

最後に今日の白昼夢のことを書いておく
私は海岸沿いの道を毎日のように散歩するのだが
いつも小さな犬を連れた婦人と挨拶を交わす
何気ない会話をする時もあるし、笑顔を向けるだけの時もある
なんだかよくわからない衝動に駆られてしまい
婦人の使い古された女性器に小犬の頭を捩じ込んで
びゅるうるるうびゅるうるるといやらしい音を鳴らして
そのまま定刻通りのバスに乗ることも…あるはずだ
街は灰に覆われているが
私の心は平和だ

[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.053: Title by 古希遊]

投稿者

大阪府

コメント

  1. 上手いな。そして面白い。7日前、3日前、今日と迫ってくる。まるでメリーさんが近づいてくるかのように。びゅるうるるびゅるうるると言いながら近づいてくるかのように。

  2. これ、ある意味前回投稿されてる『白昼夢』へ至る連作のように読めました。こっちが先なのかな、エピソードゼロ的な。
    びゅるうるる、灰が舞い、吹き飛ばされ、街が灰に覆われて、頭の中の灰色の世界と白昼夢。
    夢って語るとだいたいがつまらない印象なんだが、トノモトショウさんの手にかかると、いつもしっかりドギツイ面白さがある。

  3. 私も、前作の「白昼夢」を連想しながら読みました。夢が、日を追って次第に近づいてくる。迫ってくる。そんな怖さを感じるんですね。最終行の「私の心は平和だ」は、逆説的な意味で、余韻が残ります。

  4. 統合失調症の方だと、こんなまともな文章書けないのかな?と思いながら読んでいました。でも家族間の殺人は多いですよね〜ニュースなど見ると。まさに灰色の現実。

  5. 灰に染まったり灰が舞う様が独特の音にのって面白い調和だなあと感嘆しました。
    “ 内臓をビラビラに抉る…” ここ、好きです。

  6. 時系列が逆に今に近づいてくるのはメメントやテネット等のノーラン監督を想起させる。
    ここでは七日前には穏やかに舞うだけの灰が一度は吹き払ったはずが結局今は街中灰だらけだ。七日というのはイエス最後の七日間か天地創造の七日間か、いずれにしてもキリスト教(もしくはヘブライ)的なニュアンスがある。
    まぁなんにしろ最後心が平和なら、世界がどうだろうとそれでいいんだ。

コメントするためには、 ログイン してください。