シンクロナイズ

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「人間とは、自分の運命を支配する自由な者のことである」
「人間にかんすることで自分に無関係なものはなにもない」

― Karl Heinrich Marx ―

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午前0時0分37秒 アフガニスタン カンダハール 
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ISAF(国際治安支援部隊)のAH-64アパッチに搭乗した無名兵士が名もなき村を空爆する。死傷者は女子供を含め十三名。死んでゆくのは掃討作戦によって農地を追われてタリバンに加わるしかなかったバダフシャーン生まれの農民とその困窮する家族。殺すのはローンが払えず小さな家を奪われ軍隊に入るしかなかったノースキャロライナ育ちのやはり貧しい移民労働者。 

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“Some of them want to use you”
「誰かが君を利用しようと狙っている」

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午後9時36分6秒 日本 東京
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金と時間が使いきれないITベンチャーの社長と弁護士が女子短大生たちとプライベートスペース式カラオケで今夜も遊興している。コスプレに狂騒する彼らを、金も時間もない、中国雲南省出身の元実習生ウェイターが彼らにカクテルを運ぶ。金も時間も眠ることなく吐き散らされる異国のメガシティで、唾棄されるような身の彼は、やがて暗い欲動に背中を押される自分を意識する。

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“Some of them want to get used by you”
「君に利用されたい人もいる」

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午後11時17分15秒 タイ バンコク
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現地民モデルとのファックのために訪れたホールディングスCEOの外国人が空港を出てリムジンでスクンヴィットのホテルへ向かう。
最高のセックスを求めて未だ充足できない彼は、世界中の女と寝るために日付変更線を毎月のように越え続ける。彼の乗ったタクシーが走るハイウェーの周囲を、生存も充足せず、永久に国を越えられない人々の住む広大なスラムが包囲するように貧しい灯りを散らす。

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“Some of them want to abuse you”
「誰かが君を痛めつけようと狙っている」

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午後12時11分54秒 ソマリア アデン湾
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欧州からのカーゴシップが産業廃棄物を投棄し、大型漁船が乱獲する。彼らの船を地元漁民の武装船がシージャックする。
グローバル資本は富の力で自国はおろか世界を脅かす。彼らはイデオロギーの敵対するテロ組織にすら武器を与え、貧国を買収するように富を奪う。
ソマリアの漁民たちにはもはや頼るべき政府もない。彼らは飢えた子を抱えた家族の命を守るために外国船を襲う。

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“Some of them want to be abused by you”
「君に痛めつけられたい人もいる」

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午前8時分37秒 イギリス バーミンガム
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ワンルーム用フラットでツイッターに耽る失業中の彼は、今朝もスノーヒル駅近くの訓練校を休んだ。気がつくともう三日間部屋を出ていない。
部屋に有り余って溜まったベンゾジアゼピンの効き目が今朝は悪いのだが、両親に給付される国家第二年金で食いつないでいる彼にとって、気分障害は重要な免罪符だ。
ハイチの大地震もチープなゴシップも、時間を貪って検索するグーグルで見るのが彼のルーティンだが、隣接する壁の剥げたアパートへ越してきた中東系難民家族の少年が残った片目で見てきたものはネットでは見えない。

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“I wanna use you and abuse you”
「僕は君を利用して痛めつけたい」

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午後13時50分24秒 ネパール カトマンズ
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インドラ・チョークの通り外れで夜明け前から街角に立ち物乞いをする少女の前を、ヨーロッパからのツアー客を乗せたバスが雨中の泥を撥ねながら走る。
バスの窓から、ロキシーを飲みすぎた白人の酔っ払いのゲロが、少女の顔にまともに降りかかる。倒れた彼女は一人で上手く立てない。彼女は母親の虐待で跛(びっこ)になった。先進国から来る旅行者の哀れみを請い、多くの施しを受けるためで、幼い妹を食わせるためにはやむをえない。
 日本人のバックパッカーが少女を写真に撮る。彼のブログは世界中へFeedを飛ばすが、夕食のFeedを得られない路上の子供たちの小さな足が、撮影に夢中の大きな足へ懸命に追いすがろうとする。

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“Everybody’s looking for something”
「みんなが何かを探している」

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“I’m gonna know what’s inside you”
「私は あなたの中にあるものを知っている」

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投稿者

徳島県

コメント

  1. まず題名を見て、数行読んで、その後スクロールして全体を眺めただけで、ハートマークをクリックしました。これは私も思いついたけど書けなかった類の詩です。その後、ゆっくりと読み感動が深くなりました。この調子で1冊書けば芥川賞、いや翻訳してイギリスで出版すればブッカー賞を取ると思います。

  2. たかぼさん、ありがとうございます。ブッカー賞だったら欲しいですね。この詩は最初「富と生き地獄のシンクロナイズ」というタイトルでした。そういう方向性で書いてたのですが、タイトルを変えたのはこれは資本主義をテーマにしたんじゃなくて、もっと人の宿命とか渇望とか普遍的な範囲ではないかと思えたからなのです。

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