感想文的自由なコラムPOECOLポエコラ #008

あぶくも

あんた一体誰やねん?

#008|2022.05.19

このぽえ会において、私あぶくものリアルな存在を知っている人は皆無のはずなので、「あんた一体誰やねん?」について、せっかくの機会ですので、このポエコラの場を借りて、みなさまに出会うまでのことを少しだけお話をさせてください。

ちょうど去年の今頃だったでしょうか。なんだか実にぬぼーっとしてしまっておりました。自分の年齢や人生の来し方を振り返り、また行く末を夢想し、コロナ禍もあいまってか、そのあまりの泡沫夢幻さに「まったく何もかもリアルじゃないよなぁ」などとつぶやきながら。

さらに時代はさかのぼり、やれミレニアムだ、やれY2K問題だと、浮かれたり萎んだりした2000年頃、私は不自由業を生業としながらも、フリーペイパーの『POETRY CALENDER TOKYO』や、辻仁成さんが編集長を務めた『Wasteland』なんかを読みながら、ひとり旅するように東京を眺め徘徊しておりました。そしてどうやって知ったのかも覚えていない高田馬場のBen’s Cafeのオープンマイクに、なんとたった一度だけ立ったのでした。そんな微かな記憶を手繰り寄せては思い当たるいくつかのキーワードを、「イージーに世界と繋がれる窓」に打ち込んでみると、そこにはかのカフェがポエトリーリーディングの聖地であったこと、そして惜しまれつつも2011年に閉店したという記事などが目に飛び込んできました。しばらくいくつかのページをサーフした挙句、確か服部剛さんのブログ記事に行きつき、そこからこのぽえ会の存在を知ったのでした。

自分の所属する場からふといなくなっては、誰からも知られていない、誰のことも知らない場所にひょっこり顔を出すというようなことを、意識するしないにかかわらず、これまでの人生において幾度かやってきた私は、安宿のドミトリーに「やあ、どうも」と顔を出すかのようなノリで、空気も読まずにぽえ会の扉を開けたのでした。前ぽえ会のことも、どんな人たちがやってるのかも何も知らずにいましたが、その部屋に滞在していた人たちは、なんとも多様でホスピタリティある優しくもクリエイティブな人たちでした。

さて、ヒトサマの詩を読めること、自詩を投稿してヒトサマに読んでもらうだけでなく、互いにコメントのやりとりができることは、このぽえ会のとても貴重で魅力的な点かと思います。場を運営されている方々にはこの場を借りて感謝申し上げたいです。私自身はと言えば、そんなこんなで点々転々と、飛び飛びにとっちらかしてきた世界を回収しながら線でつないで色でも塗ってみようかと考えたのでした。ネットでもリアルでも難しいことはさっぱりわかりませんが、いつか生命が重さをなくすとき、もしくは今この時でさえ、いっそ光の粒々になってどこへでも飛んで行けるように、これからも詩を書いていけたらいいなと思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。

では、恐れ多くもヒトサマの詩の中で気になったものは沢山ありますが、その中でも作風もそれぞれ当然異なりますが、ただならぬ匂いを放っていると感じたものをいくつかピックアップしたいと思います。

 

【詩より】

★佐藤宏「鯨」2022.5.6
https://poet.jp/photo/1420/

この4行の世界の広がり。語り口調の「でした」にはさまれ、「深くふかく」「とおく遠く」、読む人それぞれのイメージを喚起しながらタイトルの鯨もあいまってか、人生の深遠さを感じさせてくれます。コメント欄でご自身が解説されていますが、詩の中で「飛躍」があることの効果について、同じ書き手としてもとても共感できるものでした。

★あまね「あなたの海へ」2022.5.4
https://poet.jp/photo/1414/

ご無沙汰だなぁ、また読みたいなぁなんて思っていたら、今年に入って即興詩を連投してくださったあまねさん。このクオリティで即興詩って言うのかと度肝抜かれつつ、その後に満を持したようにタイトルから「即興」がなくなったこの詩。もうね、ずっと読んでいたいような優しくも神秘的な景色。母親の胎内のような愛に満ち満ちた世界を描きつつも、「もっと深いところへ 優しさの生まれる場所まで」と終わるせつない感じ。それが作者の優しい視点をさらに際立たせている気がします。

【画詩より】

★うさじみゆ「理」2022.5.1
https://poet.jp/photo/1407/

これはもうたまりませんね。写真はソケイ(ジャスミン?)の花でしょうか?この素敵な写真を見ながら詩を読んで、自然の摂理への感嘆と言いますか、サムシンググレートとの対話のようななんとも言えない世界観を感じられました。この奇跡を感じたときに全身鳥肌に包まれるような感じがよく表現されているなぁなどと思いつつ鳥肌立ちながら読んでおりました。

★Yuzo「三月の紫陽花」2022.4.30
https://poet.jp/photo/1405/

「昨日→今日→回想→今日→昨日→今日」と流れる構成の中で、作者と君との距離感や関係性に思いを馳せる。その二人の間柄に読者が入り込める余地は当然ないのだけれど、別れ際にかける言葉の情感はぐっと読者を惹きつけ、最終連で一気に多数の人に読まれるべきものへと昇華されている。そこに至る三月の紫陽花の役割が効いていて、さらにその最終連では作者の心情の変化がうまく表現されていて秀逸だなぁと思いました。

★王殺し「破裂」2022.3.14
https://poet.jp/photo/1194/

立ち尽くす人と立ち尽くさない人を対比させながら、一方が他方を双方向に包含しあっているような内容が独特で、繊細で優しくて、仔細を見ながら俯瞰するような二律背反とも思えることを同時に実現してしまう、王殺しさんらしいオリジナルな視点がふんだんに盛り込まれた作品だなぁという印象を持ちました。どちらか一方ではなくどちらもあってひとつ、神の存在も不在も引き受けながら、立ち尽くしたり立ち尽くさなかったりしながら同じ夢を見たいと切に願います。

あぶくも プロフィール

和歌山出身、千葉在住。不自由業。詩が一番自由なんじゃないかと信じて、10代のいつからか、気づいたら詩(みたいなもの)を書いていた。「あぶくも」の名前は、このぽえ会参加登録の際に最後に名前付けなきゃってなってその場でつけた。シャボン玉の泡が空に舞い上がり雲になれますように。

あぶくも