12歳の幽霊

膜に覆われた甘い水の集合体が
模様をかたちづくりながらやってくる
気になるものから順にストローを刺しこむ
造形を好いてくれたこ
色を好いてくれたこ
音を好いてくれたこ
からだのにおいを好いてくれたこ
振り分けると少しだけ安らぐことをゆるされて
差し向けられた濁った水をこっそり溢したり
ポケットの中で握り潰したり
選ぶ側の自由を行使するとき

幽霊になった小6の夏
暗い教室であのこが赤い頬で飛び跳ねたこと
クッキーを食べなかった幽霊にうつむいていたこと
私なら覚えている
クッキーを食べなかったのは
週末に焼いたクッキーよりずっとじょうずでくやしかったからだし
きれいな幽霊になりたくて
鏡の前で白の布を巻いてはほどいていた前の日の夜にも
あのこのことを想っていたし

早熟だった幽霊はいつまでも
あのこのような水玉を待っている
どの味も確かめて
フィルターで濾したり包んだりしてから
集まってくれたこたちに手渡してゆく
そのこたちのすべてにはなれないくせに
情は太古からサスティナブルだとか言って
夏はとても
夏はとてもじょうずに肌をあばくから
幽霊を光らせてしまう
いつだっておばけやしき
いつまでも夏のお祭り

*

投稿者

東京都

コメント

  1. 言い方が正しいのかはわからないけど、12歳の女子ならではの感性というのがあって、12歳の幼稚な男子共には開けることのできない秘密の扉があるのだなあ。

  2. 女の子の妄想なのか、世界なのかが、感情の発露が、幽霊という現象、一言では言えない。何かが伝わるのか、何かが何なのかも、まだわからない。宇宙の神秘なのかもしれない。

  3. これは難しいなぁ。僕が男だからむずかしいのか。少年時代からも遠く離れたからむずかしいのか。
    少なくとも小6の女の子は同学年の男の子よりはるかに大人で、はるかに世界を知っていて、はるかに残酷だった。
    かといってやっぱり小6だろうし。

    女の子は過去の自分を振り返るとき、幽体離脱するのだろうか。幽霊は自分でもまぶしいのだろうな。
    男の子は単純バカだからアルコール抜きでは、しない。

  4. うちの娘が今小6なので、どんな心持ちなんだろうと思いながら読みました。こういう世界を知らずにアホばかりしてたなぁ、自分は。
    ちょっと娘に読んでもらいたいな。
    早熟ではないのでまだ感性が育ってない可能性もあるけれど。

  5. 思春期の、ちょっとあやうい感情を、幽霊になぞらえ描いていますね。あのどきどき感、懐かしく思いました。小学校の高学年ころは、女子のほうが早熟でした。…実は、初恋が、小学校6年生でした。同じクラスの女子。彼女も、幽霊だったのかな。

  6. タイトルにまずやられた。
    少女の透き通った血管の中に濁るようにして生まれてくる不穏さ、したたかさというか。
    でもやっぱり12歳は12歳できわめてあどけない。ぼくはリアルタイムの12歳に恋したことがないんだけど、クラスにこの子がいたら間違いなく好きになってしまったと思います。

  7. トノモトさん
    恥ずかしいくらいに大人のやり方に興味津々の12歳がいたのですけれど、自分、おかしいのかな?って人には言えなかったようです。
    男子の世界は羨ましかったみたい。男子同士のやんちゃし合って迷惑掛け合っているいちゃいちゃ感。

  8. timoさん
    男性脳は分からないこと程届かない程、追いかけたくなる、夢中になる、という本を読みました。女子の12歳、通ってきたはずなのにまだわかりません。だからまだ連れて歩いています。

  9. 王さん
    12歳の女の子については、知っているようで知らないで感覚で行動した結果が大人っぽく見えるのかな、とも思います。残酷なのはその通りで、育てていると「男の子は(当時の自分と違って)なんて優しいのだろう」と感動します。
    幽霊とあのこはsnsで再会して、リアルでは会わないけれどお互いに創っているものや家族を見せ合って讃え合っているそうです。

  10. あぶくもさん
    お嬢さん小6なんですね。私は小6まで父とお風呂に入ったり、夜釣りに連れて行ってもらったり大好きでしたし、今も大好きです。
    ただの人として接してくれる人に囲まれたお陰かどの頃の幽霊も大切で、今でも全員そばに置いています。

  11. 長谷川さん
    初恋って鮮やかですよね。
    女子は自覚がない内からからだが勝手に大人になり始めるので、他人の目で嫌でも覚えさせられ、自分を守るために大人になり始めるのかもしれません。
    水玉がとんできたときは、幽霊たちがいまだに相談にのってくれます。

  12. あまねさん
    甘い水が飛んでくるにおいに身構えていると、幽霊ちゃんがオフロスキーみたいに出てくるのです。
    いつも待機しているというか。
    男の子はわかりやすく関わりを持とうとするので、嬉しいけれど人の目をとても気にする年頃には困ってしまって。
    今思えば生きる力が強い人たちなんだな!と尊敬すらしています。

  13. 12歳で幽霊とは、早熟でしたな。

  14. りゅうさん
    そうだなあ、葡萄のような幽霊でしたね。

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