腕時計

父の荒れた手に
渡された小さな箱
 
お祝いだ、と
それだけで
 
破れたふすまに
擦り切れた畳の部屋
贈られた腕時計は
眩しくて
 
喉の奥で焦げ付いて
言えなかった、ありがとう
 
幾度も季節を重ね
刻まれた細かな傷
肌になじんだバンド
 
ある朝
止まっていた秒針
 
文字盤を
耳にあてれば
虚ろの奥の、拍音
私の胸にともしび

投稿者

愛知県

コメント

  1. 親の情の逆順ですね。私も素直にありがとうは云えなかった人です。
    なりきれない諦念が今もどこかに残っていて。
    とても良かったです。

  2. @風太郎 さん、コメントありがとうございます。
    時計をもらったのは随分昔のことなのに、ふと、思い出してしまって。
    スマホの時代になって、今腕時計をもらったら、あの時代ほど誇らしさを感じたりするのかなぁ、などと。

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