自詩

魑魅魍魎が跋扈するような俗世でどうにかこうにか息つぎばかりしているもので
意識朦朧でちょっと気を抜くと眼(まなこ)が裏返ってしまいそうなのだよ

ああ、もうこんな夜には
ぬるめの地獄で半身浴でもしながら
生きてしまいたい

薄い膜のかかる視界では見るものすべてが面倒で他人事
巷に溢れる珠玉の言葉が頭の中で果ててゆく
いいからもうそのオセロみたいな会話はやめにしてくれないか
四隅取られて手詰まり感が否めないのだよ

ああ、もうこんな街には
使い古しの花鳥風月をアヴァンギャルドに装飾しなおしたりして
生きてしまいたい

お別れのときが迫ってくるならいっそのこと
とびきりの憎まれ口でも叩いてみようか
あたかもあたたか過ぎる思い出のようには
あなたの住処を求めない
美しく振り返ることになど時間を割くよりも
これからの先を見つめて拓いて歩いてほしい

ああ、もうこんな未来には
心配だけが仕事であったと後悔しきって
生きてしまいたい

すきはすきでもきすだけは許さないあなたに
すきをついたつもりがこちらがすきだらけ
きすよりはぐがしっくりくるすきもあるかと説得したり納得したりまったくもって

ああ、もうこんな愛には
夕焼け空に涙を溶かし安堵の色に塗り込められて
生きてしまいたい

もののけ来たりて時間よ止まれ
種の存続 悠久の循環こそ もののあはれ
この人生のおかしみだけが いとおかし

ああ、もうどうにも今日はそんなところで
フレンチポリネシアの環礁の水面を漂うきらめきとなって
ひと想いに詩んでしまいたい

投稿者

千葉県

コメント

  1. なにかあぶくもんさんが色んなものを読み込んで飲み込んで溜め込んで産み出したのだろうかなあと想像いたしました。

  2. ずっと「生きて『しまいたい』」と来て、最後に「ひと想いに詩んでしまいたい」というこの詩の終わり方にこころを貫かれました。すてき。

  3. 「自詩」ってタイトルも「自死」にかかってるんだろうけど、自らの詩=アイデンティティのように感情をぶつけてる感じが良いね。

  4. ぬるめの地獄で半身浴、オセロみたいな会話、フレンチポリネシアの環礁の水面を漂うきらめき、などの比喩が印象的でした。

  5. 日々の、人間関係のわずらわしさを、読後、ふと自分自身に重ねてみました。

    薄い膜のかかる視界では見るものすべてが面倒で他人事
    巷に溢れる珠玉の言葉が頭の中で果ててゆく

    やるせないと思いつつ、でも、私はずっと詩人でいようと、思ったのでした。
    でなければ、…詩ねない。

  6. 笑いキノコ食べ過ぎて笑い死する人は実際のところいるのだろうかと思ったことが有りますというのも生きるために詩に溺れて死ねる人は実際のところいない田心があったからさ。私の場合は詩人とは疎遠な日々を過ごしているので詩はどこかでゴールがあると思うんだけどここではないな今ではないもっともっと先があると思ってネット詩を読みはじめて30年になるけど解らないことはまだまだまだまだ多いですね。

    コメントになっていないかもしれないけどなんとなく感想文を置いときます。

  7. 王殺しさん、ありがとうございます。
    個人の鬱憤をぶちまけているようなスタイルではありながら、読む人のどこかに触れていたらいいなぁとは思って書きました。

  8. こしごえさん、ありがとうございます。
    しまいたいは終いたいだとすると、生きてしまいたいも、詩んでしまいたいも結局同じことでしたね。
    詩となって「しまえる」なら、自詩もいいなと思えたのでした。
    こしごえさんにそのように感じてもらえて嬉しいです。

  9. トノモトショウさん、ありがとうございます。
    時々、こういうモードになる時で書く時がありますね。
    最期の最期まで、「死にたがり」ではなく、「詩にたがり」でいたいものです。

  10. たかぼさん、ありがとうございます。
    いくつかの比喩に反応してもらえたこと、なんだか嬉しいです。
    やはり自分には、光の粒々になって終いたいという根源的な欲求があります。
    それはとても宇宙的に自由で良いイメージなのです。

  11. 長谷川さん、ありがとうございます。
    そのように読んでもらえて光栄です。
    そして、ずっと詩人でいようと思ってくれて、僕も嬉しいです。
    「でなければ、…詩ねない。」
    は、最早、返答詩として受けとりました。

  12. 足立らどみさん、ありがとうございます。
    ネット詩30年ですか、すごいなぁ。
    私はこの第二期ぽえ会に参加するまでネット詩すら遠い存在でした。
    ここではない何処かを求めて解らないことだらけの海を泳いで行かれるのでしょうか。
    私は何も解らないままでいたいなぁと思い始めています。

  13. あぶくもさん。返答どうもです。考えてみると30年前はネット詩という言い方はなかったですね。
    「ここではないな」「今ではない」「もっともっと先がある」と真実を求めてインターネットを始めました。
    当時の人々は興味津々ネットを始めていたけど似たような状況だったと思います。
    これって、詩書き人ではなく詩読み人でしかない私が言うのもおこがましい話なのかもですが、
    ポエム以前の話になってしまってて言葉を読むのもこりゃあ難しいなと良く思います。

  14. あぶくもさん。返答どうもです。考えてみると30年前はネット詩という言い方はなかったですね。
    「ここではないな」「今ではない」「もっともっと先がある」と真実を求めてインターネットを始めました。
    当時の人々は興味しんしんネットを始めていたけど似たような状況だったと思います。
    これって、詩書き人ではなく詩読み人でしかない私が言うのもおこがましい話なのかもですが、
    ポエム以前の話になってしまってて言葉を読むのもこりゃあ難しいなと良く思います。

  15. あぶくもさん。返答どうもです。考えてみると30年前はネット詩という言い方はなかったですね。
    「ここではないな」「今ではない」「もっともっと先がある」と真実を求めてインターネットを始めました。
    当時の人々は興味しんしんネットを始めていたけど似たような状況だったと思います。
    これって、詩書き人ではなく詩読み人でしかない私が言うのもおこがましい話ですが、
    ポエム以前の話になってしまってて言葉を読むのもこりゃあ難しいなと良く思います。

  16. あぶくもさん。コメント欄に三つも同じようなの載せていてすみません。
    コメント修正機能が装備されたのかと思ってましたが、そうでなかった
    ようです。コメント欄を汚してしまい、ごめんなさい。

  17. 生きてしまいたい、詩んでしまいたい、共感なのか憧れなのか、内臓が揺さぶられました。かっこいい!

  18. たちまこさん、ありがとうございます。
    内臓が揺さぶられるとは!
    感想コメントがもはや詩だね、嬉しいです、そういう風に言ってもらえて。

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