山の庭の少女、浪漫の春に
幼き日には ただ涼しさを知るばかり
花と月の夜に 何を想うのかも知らなかった
星々はただ 愁うる者のために瞬き
紅の橋は もの憂き者のためには佇まない
今を生きる者は 古の人に語る術なく
古の人は 今を生きる私たちを想うのだろうか
古今の人は ともに花を愛でながら
桜は違えど 夢と花の言葉は ひとつに溶けてゆく
幾年もの間 桜の咲く春を見ぬまま
今ようやく 私は桜の人となった
少女の私は 春の川に言葉を託し
昼も夜も 流れゆく春の光を惜しむ
散りゆく桜は 一月もすれば泥となり
あとに残るは ひとりの私と 空の庭
昼はひとり ただ歌を口ずさみ
夜には龍泉を 壁辺に舞わせる
静けき山林に 時おり鹿の声
その姿を望めば もうどこにも影はない
私は庭を飛び出し その姿を追いかけ
山の奥へ 奥へと進むほど
道の遠さを 初めて知った
私の夢もまた かくも遥か
この胸の憂いは 生涯消えることなく
少女は知る 行く先の遠きを
枝分かれする山路は いったい何処へ続くのだろう
恰も一羽の鳥が 浪漫を探すように
三月の山桜の中へ 静かに舞い降りる
私は心のままに 春の歌をうたい
その浪漫は絶えることなく
いつまでも 山野に咲きつづける
旅人が 私に問う――
「そなたは いったい何者なのか」と
私は答える――
「山の庭にいる、ひとりの少女です」
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