チ。

満員電車はまるでプールみたいです
加速や減速
急停車するたびに
大きな波 小さな波に揺られてる
乗客は目を閉じて
静かな水面をつくる

どこからか
誰かの知らない手が
私の身体にたどり着くこともある
やがて意思を持っていることを知る
プールの波が
とぷんと揺れるたびに
作られるわずかな隙間を縫って
知らない手は
少しずつ
私の身体を知っていく
服の下の
あたたかさ かたち 鼓動
渦巻く感情

数駅前は慣れ親しんだリュックを抱いていたはずなのに
今はここにある
知らない手
目を閉じて
私は私の身体を委ねたくなる
水の中
その意思のなかに
吞まれようと

私たちだけになって
呼吸を繰り返していると
電車の扉は開き
濁流に乗って
あっという間に知らない手は流されていく

隙間だらけの
一人取り残された私の身体

投稿者

東京都

コメント

  1. これはすてきだあ!とちょっと興奮しました。
    詩の内容と重なってしまうのですが、疾走感…最後は流れがさらってゆきました。
    チ。の手によってやたらと明確になるからだ。
    引潮みたいな引力でした。

  2. チ。のタイトルが秀逸。一文字だけでチ。であり、その手を視覚的にも表現されている。プールの水と手と、最後の展開が花巻さんらしい気がしました。

  3. 出だしの
    ”乗客は目を閉じて
    静かな水面をつくる”
    いいですね。
    プールに置換(!)されることでアンモラルに身を沈めていく様が際立ちます。その水の無音のなかで共犯者となっていく境界の消滅。
    ”私たちだけになって呼吸を繰り返している”
    そして電車の扉があいたことは解放ではなく喪失感。

    こういうことに適切かどうかはわからないけど、とても官能的でした。

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