ストリート・ビュー
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吐いた
四条大橋
砕けた
出町柳
御池で停まったまま
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幸せな日々は
人生で
一握り
一握りが
人を
生かした
.
船岡温泉
行かなかった学校と銭湯
夕方の
お風呂の湯煙は
“Message in a Bottle”
安アパートの
理想
夕方の光に
怯えと
若さの恍惚
すぐき菜
紫野
総菜屋のおばさんは
アルバイト 断った
大徳寺
アパレルショップの主人
T-REXの話ばかり
懐かしい人たち
.
紫竹のアパート
数時間分の
8ミリフィルム
ちぎって
繋げた
滞納した家賃
よく待ってくれた
大家
ネクタイの
結び方
教えてくれた
管理人の夫
雨が
一日も降らなかった夏
北山通は
根拠地中枢
ゲリラ撮影
YMOが
まだ甘く聞こえた
.
下宿の部屋
貼られたウォーホルの絵
CDに埋もれて
行かなかった学校
「おまえの部屋、『観念部屋』やな」
御園橋のパスタ屋
正月は
家に帰らなかった
大宮通
先輩のボロ下宿
麻雀と
西田幾多郎の輪読
訳分からず
それでも分析哲学
好きだった
.
鴨川
ファーストキス
「キスしてって言わんといて」
植物園は
別れの
デートコース
一号館の校舎
いつも
友達ばかり 探した
北大路のラーメン屋は
稚拙なインテリジェンスと
人肌溢れた頃の愚痴
カントリー喫茶
出会って
別れて
若い不器用な男女
行き交った
.
思い出のラブホは
ガソリンスタンド
再生
希った
衣棚通りの仕出し屋
配達先のマンションの
嫌われ者の管理人
「いい人やねんな」と言ってくれた
いい人
どれぐらい遠ざかったのだろうか
白川通で買ったカルネは
投げやりだった午後
同棲
あのひと
守られた日々だった
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鞍馬口の居酒屋
「いつか結婚して」
「いつか、好きやな」
とりわさと梅にんにく
今出川の下宿
意味もなく よく泣いた
木屋町の
長浜ラーメン
中国人留学生 忙しなく
こっち 親の金で
遊んだ
「ここはなにをしてもええんやで」
祇園のラウンジ
女
切なかった
.
宝ヶ池
引っ越して
猫、なついた
岩倉に住んだ恋人と
ベッドに挟んで寝た
流星群、見た鞍馬山
あの夜のセックス
酒、欲しかった
養命酒で
眠る彼女
朝まで眺めた
一乗寺で食べた
にしん蕎麦
よく笑った彼女
京阪で梅田へ
二度と戻れなくなるデートだった
.
「懐かしい」は
言葉の
貧しさで
輝きと温かみと優しさと
もう帰れないで
思い出
ここは
「懐かしい」の
なれの涯て
の
墓場
それでも
人生で
幸せだった
一握りの日々は
一握りの
輝きと温かみと優しさで
人を
生かす
一晩 眺めた
ストリート・ビュー
眩暈しながら
遠い街になった 遠くちぎれた
日々を知った
今朝の光。
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コメント
自らの記憶を、ストリート・ビューとして編集し、観ていく。誰にも、ちいさな、でも大切なドラマがあるのでしょうね。鴨川のシーンが印象に残りました。言葉から、映像を想像してみました。
思い出の地を記憶で辿り、実際にストリートビューで巡ったかどうかは別として、一握りの日々がいかに今の生を照らしてくれるかをイメージしながら読みました。
京都の真ん中から右上らへん(笑)の地名に親しみも覚えつつ。
遠くちぎれてはいるけれど、ポジティブさを感じる朝の光にグッときます。
長谷川さん、ありがとうございます。この詩は特に映像感を出したくて、しかも静かで素朴な映像になった気がします。鴨川は一番気持ちを落としていった場所だと思います。
あぶくもさん、ありがとうございます。僕は京都の上の真ん中と右上あたりを縄張りにして動いてました。冬は寒い感じですね。原付であんな寒いところを寒々した気持ちで走っていました。今では暖かい過去ですが、当時はいつも苦しかったですね。
ノスタルジーがくす玉みたいにひらひらきらきらして見えました。
たちまこさん、ありがとうございます。くす玉ってうれしいですね。おめでたくて、ちょっと寂しげで好きです。