またね

またね

日曜の朝、街中で声をかけられた
 
今、何時ですか
声の主は黒ずくめの小学生の男の子
私は左腕をたくし上げて腕時計を見せた
 
今日は、晴れて良かったですね
人なつっこく話しかけてくる
遠くの雲の合間が青い
この2日間は体調もくずして天気もよろしくなかった
私は空を見上げたまま「晴れて良かったですね」と返答した
  
この町は何という場所ですか
この子はいったいなんなんだろうと感じながらも
地元愛のある私は大森や蒲田のことから話そうと思ったが
「池上です」と返答した
 
わたしは日本人ではありません
もう、この子はいきなり撫し付けに
何を言い出すのかと声の主の顔を見つめ返した
子どもと思っていたが背の低い女性のようにも見えた
思わず、なに人ですかと反射的に聞いてしまった
 
モンゴル人です
その人は一瞬たじろいだあと出身地を話しながら
私の目を見つめ返してきた
その人の顔は色白であり平面的で私は高校生の時に観た
絵画の少女に似ているなと感じた
 
いつもの朝から私は何の会話をしているのだろう
私はその場からはやく離脱したかった
 
今日はどちらに行かれるのですか
私から話題をふると、その人は散歩ですと答えた
私は駅の方向とは逆の池上本門寺を指差して素敵な場所なので
行ってみたらとアドバイスして手を振って別れた
 
「またね」
私は背面からの大きな声に肩をすぼませてから
ゆっくり振り返ってみると誰も居なかった
隠れる場所のない街中をしばらく私は探し回ったが
その人は消えていた

何者だったんだろう。昨日、九段下で食べた八咫烏のことを
ふと思い出した。
 
 
 //.

投稿者

東京都

コメント

  1. やたがらすも普通の烏も食べたことはないですが、私はこの詩を美味しく頂きました。

  2. へい、らっしゃい。あざっす

  3. たかぼさん、私にとって詩は難しいです。
    ラーメンは換骨奪胎のダシが命で詩腸鼓吹の食べ方でも味がかわることを考えてみたら詩も宇宙なのかもしれません。

  4. 池上本門寺は、まだ訪ねたことがありません。この詩を読み、訪ねてみたくなりました。町中で、足立さんとばったりお会いできたら、嬉しいかもです。

  5. では、町中で長谷川さんの姿を
    お見かけしたら
    今、何時ですかとお尋ね致します。

  6. 面白かったです

  7. 戦時下のさなか不謹慎だということでしたら僕からは何も返せないのです。
    ごめんなさい

  8. timoleonさんもともだち。
    ありがとう

  9. やたがらす好きです。
    「またね」の連が効いていますね。そして最終連。すてきな詩。

  10. どうなのかな。
     
    仮の名だけどそれなりに気には止めていたブラジル人ラッパーの「ACE」が逮捕されたという小さな記事はワールドカップ予選通過のニュースに埋もれて消えているけど、一歩譲って既に現在詩のたぐいの上にネット情報は成り立っているとしても丶それには本流は流れていない筈ですから、都度、再生していく枠をも気にせずに、森羅万象に身をゆだねて皆さまの「作品」に接していきたいだけなのかな
     
    なんちゃって

  11. こしごえさん、わたしも好きですよ
    「ヤタガラスを光に」ですね

  12. なるほど、なるほど。
    その人は確かにモンゴル人だった。
    わかるぞ、わかるぞ。
    (どうわかるんだよ、言ってみてよって)

  13. 面白かったです。最後の二行がすごく生きていますね。

  14. 佐藤宏さん、3月のログにコメントありがとうございます。
     
    人類という生命体の摩訶不思議さを堪能していただければ
    という思いでまじめに綴つてみたのですが反響少ないです

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