20分
視界の隅に見慣れない虫の影
揺らめいたり消えたりする
掌で無理に追い払おうとしても
実際にはそこに虫なんていない
そんなことくらいとっくに承知しているわ
男は私の乳首を貪るように噛んでいる
うっすら浮かぶ血の味を確かめながら
愛してるなどの下らない言葉を紡ぐのだ
私は男の名前を知らないが
男は私の名前を呼んでいる
そういう時の私は
私の名前を騙る誰かの姿になりながら
私という事象に平伏すという
不思議な感覚になる
小さな呻き声をあげる私
の姿を見守る私
を風景として捉える私
に嫌悪する私
が愛しい私の心
で感じる私の身体
に隷属する私の心
が震える
増えていく
幻想の隠微な虫達が
一斉に私の耳から入り込んで
眼球の表面を滑っていく
イメージ
する私は現実で
男の熱い精液を下腹に浴びて
一瞬、
失神する現実を
イメージ
する私の20分
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.092: Title by ぴっきー]
コメント
パラレルワールドへの無限の螺旋階段の途中で待ち構えている数えきれない扉の鍵穴に差し込むそれぞれのキー。エロスの1ラウンドは20分限定。
トノモトショウさんの詩を読んでいつも感じるある種の音楽性。それは詩を読む側にとってありがたいことです。なぜならリズムに乗せられて退屈せずに読み切ることができるからです。小粋な短編小説を読んだ後のような満足感。
特に2連目の後半の「私」と向き合う「私」の流れが美しい。
イメージ/する私の20分、という終わり方も「私」の世界が見えてきておもしろいです。
BPM高く読み上げました。
私がどんどんズームアウトしていく感じ、とても気持ち良いです。
どこから数えて20分なのかなー、なんて。
20分、という時間が、微妙であり絶妙ですね。2連目の後半からの流れるような描写、その背後に被さる、20分。時間の妙を想いました。
スゲェ冷静なのが、冷笑にも感じる、バカげた男を冷ややかに見てる女性の回路にブートインしてトリップして、射精したい欲求すら記号的だった。