とある機械人形の御伽

これはこれは、むかしのおはなし。
とあるとある、かなしいおはなし。

からりん、からりん、がらん。
今日も人形は動きます。
からりん、からりん、ごろっ。
すると、拍手が鳴り響きます。

相手は舌打ちをし、
ただただ、人形を睨み帰ります。
今宵も、人形の勝ちでございます。

勝った人形に賭けた者は金を受け取り、
負けた人間に賭けた人は叫びます。
そして、紙幣が部屋中に飛びます。

これは、天才なる機械人形。
賭博とチェス。その為だけの機械人形。

「その人形に勝てるものは居ない。」
そんな噂を聞きつけた大勢の人間が、
それはそれは明かりに群がる蛾のよう。
あっという間に集まります。

さて、とある新月の晩でございます。
からりん、からりん、ごろん。
からりん、からりん、ごろん。
人形の動きはいつも通り。
いつも通りに動きます。

からりん、からり、ごろ。
から、り。から。ごろ、ん。
突如、人形の動きが止まったので
ございます。

人形師はそれはそれは大慌て。
必死に脚元の箱を蹴ります。
しかし、もう反応はありません。

人々がそっと箱を開けると、
箱の中には痩せ細った少年がぽつんと。

かたり。

ガラクタのように、物のように、
中に置かれていたのです。

箱の中に無理やり、
孤児を閉じ込めていた、
哀れな人形師は罵声を浴びせられ、
紙幣と人々の殴り合いが始まります。

チェスの駒は床に落ち、落ちた紙幣には
人々の血と汗がこべり付いたのでした。

もう、誰も少年に
目をくれる者は居ません。
いつしか、その機械人形は忘れられ、

そして、この話を知るものは、
もう誰も居なくなったのです。

ところで、何故、
私がこの話を知っているかと?
さあ、どうしてでしょうね。

投稿者

広島県

コメント

  1. 追記
    元ネタはトルコ人と呼ばれるチェスをする自動人形の話です。ちなみに中には人が居たとか居なかったとか。詳しいことは知りません。

  2. 最早ショートショートですね。読後感たっぷりな感じです。^_^

  3. BENI様
    コメントありがとうございます。
    私の作品はこういったストーリー性のものが多めなので、それをいかに詩のようにリズミカルに読みやすくするかなど、色々こだわってます。

    詩って難しいよなぁと改めて考えている最近です。はい。

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