普通
28歳の誕生日に僕は
何も特別ではなかったのだと気付く
埃を被ったフェンダー・ジャガー
ラクダ味の煙草の苦い吐息
先に死んだのは猫だった
チカチカと発光しながら僕の腕の中で眠った
その夜、きまぐれに抱いた女が孕んで
生命の不条理さを思い知る
つまり世界は変革を畏れ
ナルコレプシーの毎日が始まって
そこに留まる僕らは、ただ
言葉を必要としなくなっていく
働いて、飯を食い、排泄する、を繰り返し
働いて、飯を食い、排泄する、を繰り返し
働いて、飯を食い、排泄する、を繰り返し
、を繰り返し
、を繰り返し
夢の中 、を繰り返し
叶わなかった少年の指先 、を繰り返し
メメント・モリ 、を繰り返し
何度も頭を打ちつけた街で
例えばスーパーで特売の玉葱を買うとか
通り過ぎる団地妻の卑猥な胸元を覗くとか
アスファルトを突き抜けた珍しい色の花を摘むとか
そんな小さな幸福に隷属している
偶然が生んだ幼い我が子は
チカチカと発光しながら僕の腕の中で眠った
その時、たわむれに涙を流して
表現の不完全さを思い知る
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.071: Title by 丈生]
コメント
まず、普通とは何なのか。世の中の、世界の、自然の、宇宙の普通って何? これは今に始まったことではなくて、大昔から異常が普通になっているのではないでしょうか、と思ってしまう位に私自身は普通ではないと思っています。
この詩は、普通ということの特異性を絶妙に味わい深く表現している。それらがすごいです。
これはたまらないですね。
27歳で逝ったカートのジャガーを28歳で手にして、それも埃がかぶって、猫が死んで、生を孕んで、生活は死んで、夢の中でも死んで、小さな幸福に隷属しながら縁あった我が子とともに自分も生きてる。
何という讃歌だろう。
とてもゆたかです。
「普通」というタイトルの妙を想いました。この詩のタイトルが「普通」でなかったら、読み手のイメージはずいぶん変わってきます。作品中ほどの「、を繰り返し」のリフレイン、上手いですね。こういう手法を使えるのが、詩の強みでしょう。