未遂

透明にされた子どもが
夜の手招きで
ラムネを口いっぱい頬張って
闇に漂う星屑になれたら
美しくなれたら
くるしくないの 泣かないでいいの
溶けて流れる甘ったるい微粒子に酔いながら
目を閉じた

透明にされたお母さん
透明にされたお兄ちゃん
きみもぼくの弟になりなよ
透明なものがたりを教えてあげる
優しい眠りにつけるまで

赤い光線があの人にも届いて
名前を哀しく響かせて
走る靴音に重ねるように白い天使が叫んでいた
洗われた内臓でソーダ水になりながらはじけている途方もないリズムを
数え終えたなら行けるのかあなたは知らない
呼びたくても呼べるあなたが見つからない
差し伸べられた手を叩き落とすタイミングばかり見計らって
心臓に巣食う魔物を大事そうにかくまったまま
細い管から逃げてゆく羽虫を見送っていた

朝が来てしまったことをきみのせいにした
きらびやかな遣いを撃ち落としながら
くるしくて むせび泣いて
焦がれながら溺れている
この透明な世界で

*2020.9

投稿者

東京都

コメント

  1. 透明という言葉がその透き通る様より、沈鬱さや残酷なイメージをもった。
    追えぬものを追ってしまう、無理やり吐き出させられる苦しみを思った。
    イメージにつらい記憶があふれた。
    生きていてよかった。
    まったく的外れな読み方だったかもしれないけど。

  2. 透明な世界について、思いを巡らせました。

  3. 「たま」の「電車かもしれない」という歌が私はとても好きなのですが、その歌詞に「ぼくらは生まれつき体のない子どもたち」というのがあって「透明にされた子ども」という言葉が私の中で「たま」の歌詞にリンクしました。でもたまの方は生まれつきであるのに対して、この詩は「された」なので透明化は後天的な現象でしょう。おそらくは「死んでしまった」のではないかと。同じようにお母さんもお兄さんも透明にされたのであります。これは死を悼む詩と私には思えてなりません。しかし最後に「この透明な世界で」とありますので、広い意味でこの世界も死んでいる、あるいは死につつあるということなのでしょうか。たしかに死なない生物は存在しないのであって、この世はかりそめの世界なのでありましょう。

  4. この透明な世界で
    透明にされた
    未遂

    刺激的な世界だと感じます。
    透明って、当然ながら、色が無いということだけど、色が無いという世界があるのだと、この詩を読んで あらためて おもいます。
    そしてこの詩を読んで、優しくて、切ない気持ちになります。
    すごい詩です!

  5. 三連目に、作者の切なる肉声が聞こえてきます。読んでいて、胸がいっぱいになってくるような…。透明な世界とは、こちら側なのか、あちら側なのか? 読後、考えてみました。

  6. たまに現れては「いいね」を掻っ攫っていくたちまこの詩は、多くの人の心に突き刺さる汎用性を持っている気がする。決してシンプルな比喩ではないけれど、そこに描かれているイメージそのものは素直に受け止められるんだろうな。たちまこといえば色や模様に彩られている世界を映す詩人だと勝手に思っているけど、だからこそ「透明」という表現が強くネガティヴさを持つ。でも「透明」なものにも確実に美しさってのがあって、その矛盾性が余計にどうしようもなさみたいなものを際立たせる。

  7. 透明の中で窒息しそうなヴィジョンがSFチックであり、ロマンチックであり、退廃的であり、結局人間供は何も見えてなくて、不可視の世界、つまり透明にしか見えてないんじゃないか?って思ったところで、泡

  8. 王さん
    そうなんです。沈鬱で残酷。色を知らない世界。無いものとして扱われた存在。
    自分は希死念慮が無いまま生きてきて、出来れば大切な人たちににも無ければいいのに(あることは否定しない。行使しないで欲しい)とか思うわけですが、例えばODなんかの行動を起こしてしまったときの思考や感じたものを想像して胸が焼けるようになるので、文字に吐いて楽になろうという無意識のループです。
    生きててよかったって思います。ほんとうに。

  9. 服部さん
    服部さんの中にある透明はどんな世界なんでしょう。美味しい透明な飲み物もありますよね。

  10. たかぼさん
    丁寧に読んでくださり光栄です。
    たまの電車かもしれない、聴いてきました。たまの歌詞はめちゃめちゃ素敵ですね。
    透明にされる為に生まれるループをとめる為に生まれてきたものの、透明化の力が怖すぎて皆逃げられもしないような、そうなんです。あらかじめ死ぬことが決定付けられていると言えます。透明なお母さんから生まれた透明な子どもたち、入れ物は大人なのにずっと子ども。悼む気持ち、助けたくても助けられない気持ちも書きました。

  11. こしごえさん
    もったいないお言葉、しかしながらありがとうございます。
    形や質感はあって蠢いていて、透けて見える向こう側の色で存在が辛うじて成り立っているように見えた現象、心象かな、を書きました。
    いつか真に優しくなりたいです。

  12. 長谷川さん
    胸の中に触れられたようで嬉しいです。透明にされたその人に憑依したらこんな景色が見えてこう思うだろうなと、それが三連目で。
    どうすることも出来ないものごとって無いとは言えないんですよね。“自分”だけは変わってゆけるんですけどね。

  13. トノモトさん
    そんな風に評してくださって嬉しい以外に無いですよ。ありがとうございます。
    たちまこの詩作はそこそこ料理が好きなお母ちゃんが日々何かしらキャッチーなご飯作っていてたまに食べ慣れない味付けが出てきてどうすんのこれってなる感じなのではないかと。皆さんが読んでくださるのは気を遣ってのことだとしてもすっごく嬉しいし、特に密かにちょっと怖いと思っているトノモトさんに感想頂けるとガッツポーズしています。
    どうしようもない、を、汲み取ってもらえてさらにむくわれています。

  14. timoさん
    いつもお洒落な感想嬉しいです。確かにSFチックなところあるね。気付かなかったです。新発見です。
    ラムネって沢山食べるとお腹の中で泡立つのかしらーって思ったのです。

  15. コメント、コメント投稿から5分間は編集出来る様になったそうです。

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