感想文的自由なコラムPOECOLポエコラ #005

timoleon

「メメント モーヌ。」

#005|2022.01.20

2000年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の映画「メメント」は10分ほどしか記憶が持たない男に、いったい何が起こったのかを、時系列を逆行し、つまり現在から過去を遡るように描かれていた映画で、この原作は短編「Memento Mori」というタイトルであった。メメント・モリ(memento mori)とはラテン語で「死を忘れるな」という意味である。

2022年1月11日の現在から遡ると日本WEB詩人会が、今回のカタチとなる以前、poet.jpのサイトでは、自由闊達な交流が見られていた、投稿する側だけでなくコメントする側にも積極的に意見を交わす者もいて、そのような日本WEB詩人会の数多のweb詩人の中に、モーヌ。という詩人がいた。彼は作品を定期的に投稿し、また他の作品にも誠実にコメントを寄せていた。私はというと、例えるなら、馴染みのない通りすがりのブティックの前で冷やかしの客のようにショーウインドウを眺めるだけで、サイトを覗いては、彼らのやりとりを、ただ傍観しているだけであったが、ふとモーヌ。の詩には、コメントを残したくなり、彼のフランダースの犬の主題の過去詩にコメントをし、自分自身はおふざけの詩を投稿した。すると、ある日彼から自分の作品のコメントに「過去の自分の詩にコメントくださり、ありがとうございました。」という返事が寄せられた。私は自分に詩を書く才能はないと思っていたので、詩の投稿をすることには消極的だったが、なぜか沸々と様々なアイディアは湧いてきたので、見よう見真似で詩のようなものを投稿するようになり、モーヌ。や他の詩人からコメントをもらうことがただ、純粋にそして密かな愉しみとなっていった。

今思うとモーヌ。ほど、他の作品を読んで誠実にコメントをしていた詩人はいないと思う、彼の穏やかな語りや、率直な意見は、目利きのような鋭さもあり、時には何故か青臭い言葉も放ち、私だけでない、他の詩人達は、それをプラトンの洞窟の比喩になぞれば、洞窟の内部、ネットという空間の中で囚われ、壁に映る影のような存在たち、詩のようなものを書いている者たちに、モーヌ。は背後から火を灯してくれていたような気がする、WEB詩はまだ、朧な存在の中、決して型どおりにならない揺れ動く影のようなもので、それらに輪郭を与え、肯定されていくようでもあった。またそういった中にも、観念や理念、つまりはイデアが、あるかのようにさえも思えた。それほど、モーヌ。はプラトニックな詩の読み手で、そのような読み手がいることで、WEBの中の詩人たちは正当化され、勇気づけられたと思う。

昨年、新たにリニューアルしたpoet.jpにおいて、自分も、かつてのモーヌ。同様、コメントできたら、と内心では奮起したが、それは到底、役不足ではあったと思い知りもしたが、自戒を込めて、自らに刺青するように、今回ここに記せたらと、コラムを書かせてもらっている。

話を最初に戻せば、メメント・モリはキリスト教的な芸術作品の中で頭髑髏などのモチーフ、死を連想させるモチーフとして描かれるが、決して死を忌み嫌う意味ではなく、また、現実から目をそらし死を遠ざけるものでもない、その後には、カルぺ・ディエム(Carpe diem)「今日という日の花を摘め」と続き、つまりは人は死ぬ、だからこそ今を大切に生きよ、というメッセージである。

私たちは、すぐに忘れる。先週に何を食べたか、先月は誰と話したか、自分が何をしたかったのかも忘れている、誰にでも死があるという事実さえも忘れ去ることもできる。古の人は洞窟に絵を描き、岩に文字を刻み、またパピルスに自らのことを記し、または書物に託し、誰か他の世の人に、また先の人に、自分がいなくなった後の未来の者にさえ、何かを伝えようとしてきた。我々は過去の人間と交信するかのように、想いを馳せる。今を生きているということは、延々と砂漠化していく間延びした今をどこに行くかもわからない、またそれは、ランニングマシンの上でただひたすらVRゴーグルをつけて歩いているだけで、位置情報は移動していないかもしれない、誰に伝えるでもない言葉をつぶやきながら、気弱になって、やれセンチメンタルだ、ノスタルジーだ、とか言いながら、最後にはもうどこにも存在しないであろう原風景でも眺めながら、poe.jpで遠い過去の詩でも読んでみようかと思いつき、自分の端末のパスワードにも、秘密の質問にも答えられず、あきらめきったところで、思い起こせば、モーヌ。にコメントをもらったこと、まるで遠い過去の出来事みたいに自分は先ほど語ったが、それは、つい最近のことであった。

参照:*モーヌ。 Blog「せんちめんたる・ふーる」 
http://sentimentalfool.blog11.fc2.com

以下、2021年12月末までに投稿された作品の中から紹介させていただきます

西園寺リル
「詩」
https://poet.jp/photo/942/
詩とは文学とは何か、と考えると、この作品には一つの答えがあると思いました。

たかぼ
「スペンサーの地下室」
https://poet.jp/photo/950/
物語の断片の中に、異空間の時間の水脈が流れていて、ふと壁にかかった時計を目にしました。

トノモトショウ
「涙」
https://poet.jp/photo/963/
実録、ドキュメンタリーの手法。方法論だけではなく内容とモチーフに感服しました。

たちばなまこと
「お日様の詩(2021)」
https://poet.jp/photo/967/
「元始女性は太陽であった」と言う女性は過去にいたが、冒頭「お日様が死んだ」とショッキングなことばのはじまりと再生の詩。

timoleon プロフィール

2006年にダン・ローズの著作「ティモレオン−センチメンタル・ジャーニー」を、たまたま読んでいたので、そこから名前を引用し、日本WEB詩人会に投稿をはじめる。
同人「ROKURO」に参加
好きな詩人は吉増剛造。好きな本は「黒い時計の旅」スティーブ・エリクソン。
好きな画家は尾形光琳。
Twitter→ timoleonlotus

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